代理出産は本当に違法であろうか?

2021年1月18日午後、中国の人気女優の鄭爽さんが米国で「子供を代理出産した」というニュースがネット上で駆け巡り、大きな話題を呼んだ。鄭さんの元交際相手張恒さんは、米国で2人の「小さな命」の世話をしていると自爆し、その後、張さんの友人はマスコミに、母親の氏名が「shuang zheng」、父親の氏名が「heng zhang」と示した2枚の出生証明書を提供し、張恒さんと子どもが米国に滞在し、帰国できなかった理由について、鄭さんが関連法的手続きに対し、「非協力的」からであったと指摘した。
2021-07-15 17:36:53

2021年1月18日午後、中国の人気女優の鄭爽さんが米国で「子供を代理出産した」というニュースがネット上で駆け巡り、大きな話題を呼んだ。鄭さんの元交際相手張恒さんは、米国で2人の「小さな命」の世話をしていると自爆し、その後、張さんの友人はマスコミに、母親の氏名が「shuang zheng」、父親の氏名が「heng zhang」と示した2枚の出生証明書を提供し、張恒さんと子どもが米国に滞在し、帰国できなかった理由について、鄭さんが関連法的手続きに対し、「非協力的」からであったと指摘した。

 

その後、鄭さん、その両親と張さんの両親が、子供の「妊娠中絶」について、交わした会話の音声テープがネット上で公開され、一時、鄭さんの「代理出産及び養育放棄」という行為に関する批判が殺到した。

 

鄭さんがネットで、激しいバッシングを受けている中、「代理出産」という法的にグレーゾーンとされる課題も大きく注目され、ネット上では、代理出産の合法性問題に関ついて、熱い議論が繰り広げられた。

 

代理出産が違法であるという意見が多く、鄭さんを懲役刑に処するべきだという意見もある。国民的話題となり、広く議論されたことからも代理出産という問題の複雑さが分かる。「代理出産は違法である」「代理出産を取り締まるべきである」という結論を出すことは簡単であるが、それによって、「弱い女性の権益」を保護することはできるであろうか。

 

代理出産は非常に複雑な倫理・立法問題であるため、当面、国際社会では禁止することが主流となっている。鄭さんが選んだ米国は、代理出産ビジネスが合法化されている数少ない国の一つである。カリフォルニア、コネティカット、デラウェア、メイン、ネバダ等の州は代理出産を明確に許可している。然しながら、その他の多くの州は関連法律規定がなく、代理出産を明確的に禁止している州もある。

 

ネット上に公開された2枚の出生証明書によると、鄭さん2人の子供は米国のネバダ州とコロラド州で生まれた。ネバダ州は法律で代理出産が認められているが、コロラド州は明確的な規定がなく、代理出産を禁止していない。

 

中国の現行法律では、代理出産に関ついて、次のような法規がある。

 

1.元衛生部が2001年に公布した「人類補助生殖技術管理方法」第3条は、医療机関と医療従事者は如何なる形の代理懐胎技術を施してはならないと規定している。

2.元衛生部が2003年に公布した「人類補助生殖技術規範」第3章第5項は、人類補助生殖技術の実施技術者が代理懐胎技術を施すことを禁止している。

3.元衛生部が2003年に公布した「人類補助生殖技術及び人類精子バンク倫理原則」第1章第(3)項第5条は、医療従事者は代理懐胎技術を施してはならないと規定している。

 

上記のように、中国では代理出産は禁止されているが、規制対象は「医療机関」、「医療従事者」、「技術実施者」となっている。代理出産という巨大な産業チェーンのその他の参加者、例えば、代理出産の依頼人、代理出産者(代理母)、精子や卵子の提供者、仲介業者等に対し、直接、禁止又は処罰する規定がない。

 

それゆえ、鄭さん及び張さんは代理出産の依頼者として、米国現地の法律にも、中国の法律にも違反していないと言える。

 

中国の立法者は、代理出産を全面的に禁止することのマイナスの影響を意識したようである。2015年、国務院に採択された「中国人口及び計画出産法改正案(草案)」は、「いかなる形の代理出産を禁止する」と明確に規定していた。然しながら、2016年に公布された「中国人口及び計画出産法改正案」には、当該禁止規定が削除された。

現実的に代理出産を望む人、例えば、一人っ子を失った家庭及び不妊症に悩む夫婦等が、存在することを念頭に置き、削除されたと思われる。

 

「中国人口及び計画出産法改正案」が発布される前の2014年に、無錫市中等裁判所は、次のような事件を審理した。沈さん夫婦は不妊症によって、南京市鼓楼医院で人工補助生殖技術を通じて、四個の受精卵を作成した。ところが、不幸なことに、手術を行う数日前、夫婦とも交通事故によって死亡した。その後、沈氏夫婦の双方の両親は、四個の受精卵の帰属をめぐり、病院側と紛争が生じた。

 

鼓楼病院は、「衛生部が受精卵の売買、贈与と代理出産の実施を禁止すると規定している」という理由で、夫婦双方の親が四個の受精卵を相続できないと主張した。一方、裁判所は、衛生部の規定は、医療機関と医療人員が人工生殖助技術を施すことに関する管理規定であり、当該部門規定は、当事者の正当な権利を否定することができない;。受精卵の権利帰属の判定は極めて特殊であり、倫理、感情、特殊利益への保護等の要素を総合的に考慮しなければならないとの見解を示した。

 

最終的、無錫市中等裁判所は四個の受精卵を、沈氏夫婦の双方の両親が共同で管理・処分することを認める判決を下した。2017年、双方の両親は、代理出産で生まれた孫娘を迎えることができた。

 

裁判所は、双方の両親が受精卵を代理出産に使うことを知っていながら、このような判決を下した。つまり、このような極端な状況下で、裁判所は代理出産の必要性をある程度認めた。

 

今、この判決を経て、生まれた子供は、もうすぐ四歳になる。この間、「中国人口及び計画出産法改正案」が発布されたが、代理出産の産業チェーンを監督管理する法律が整備されていない状況が変わっていないので、収まりがつかない現状が続いている。

 

まず、代理出産が法律で違法とされても、代理出産の需要がなくなるわけではない。関連データによると、中国で不妊症に悩む夫婦の割合は近年、10 ~ 15%に上っている。女性が子供を産めない場合、経済力のある一部の夫婦が代理出産を選択せざるを得ないことは容易に想像できる。膨大な需要によって、「代理出産の闇市」が形成されるのも当然のことである。

 

不完全なデータ統計によると、現在、国内の代理出産機構の数は400を超えている。多くの機構では、卵子の採取から胚移植、妊娠出産までの「ワンストップサービス」を提供している。更に、出産後の子供出生届等の法的手続まで、引き受けてくれる業者もある。代理出産の費用は40万元から130万元までとされてあり、オプション(男児を指定するか、成功保証があるか等)によって費用が異なる。

 

然しながら、その他の「闇市」のように、巨額の費用を投じたものの、当事者の利益を守る仕組みがない。

 

最大の問題は、前述の法規及び倫理上の理由によって、司法実務において、裁判所は通常、代理出産契約が公序良俗に反するとして、無効と判定することにある。つまり、依頼者と代理出産の仲介業者との間に紛争が生じた場合、例えば、仲介業者が資金を持ち逃げした場合、依頼者は法的ルートを通じて、自己利益を守ることができない。当事者が締結した代理出産契約は法によって、保護されない。

 

また、正規の医療機構及び医療従事者が代理出産を実施することが許可されていないため、手術が、医療安全規定を満たさない環境で行われることが多く、代理母及び胎児の健康と安全が保障されない。

 

鄭さんの代理出産が発覚される前に、代理出産を巡り、話題になったニュースはもう一つある。代理母の一人が代理出産の手術中に梅毒に感染し、依頼者から依頼を取り消した。代理母は子供を産んだが、生活が苦しくなり、子供の出生証明書を売ってしまい、今でも子供の戸籍問題を解決していない。 

 

代理出産に大きな闇市が存在することについて、客観的に関連需要があるほか、違法コストの低さもその要因一つであると指摘されている。「人類補助生殖技術管理方法」第22条は、「法に違反して代理出産技術を施した場合、省、自治区、直轄市の政府の衛生行政部門は警告、3万元以下の罰金を科し、責任者に行政処分を与えることができる。犯罪を構成する者に対し、法に基づき刑事責任を追及することができる」と規定している。

 

つまり、刑事犯罪を構成し、重大な損害、例えば人命の死傷や莫大な財産損失をもたらさない限り、法律に違反して代理出産を実施した場合の罰金は通常、3万元以下とされている。代理出産の莫大な利益に比べれば、それぐらい罰金は微々たるものである。それゆえ、実際のところ、多くの医療機関及び医療関係者がリスクを犯し、参与している。

 

代理出産が合法化されるべきか否かは、争議のある立法問題である。ウクライナのように完全に開放する国があり、禁止して厳しい罰則を定めている国もある。フランスの法律は代理出産を全面的に禁止しているだけでなく、代理出産を組織・企画する協会及び医師に懲役3年、4.5万ユーロの罰金を科すことができると規定している。尚、フランス人の夫婦が国外で代理出産を通じて得た血縁関係の子供は、フランス国籍を取得することができない。一方、中国では外国の代理母が産んだ子供が帰国すれば、簡単に中国国籍と戸籍を取得することができる。

現在、関連法律の大きな問題点は、「代理出産の違法性」の認定において、法律適用対象の制限、監督管理及び厳しい処罰規定が欠ているため、関連規定が形骸化されていることにある。益々多くの人が参与してきているが、その権益が法律上に保障されていない。

 

筆者は、代理出産を選択した人をバッシングするよりも、この収まりのつかない現状を打破するために、関連立法を推進することのほうが喫緊の課題ではないかと考えている。

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