先日、北京インターネット裁判所は、情報ネットワーク伝播権をめぐる紛争事件を審決し、被告深せん市蜀黍科技有限会社(以下、「被告」)が「映像図解」方式を通じて、ドラマ「永遠の桃花~三生三世~」(以下、「係争ドラマ」)の連続画像を配信した行為が、原告の優酷ネット技術(北京)有限会社(以下、「原告」)の専有情報ネットワーク伝播権を侵害したと判定した。当該判决は、権利侵害主体の認定、合理的使用の排除の理由について、条理を立てて説明しており指摘するところがないが、権利侵害行為に関わる著作物種類の認定、及びそれによって生じた原告資格の問題については、筆者は検討する余地があると考えている。
一、 事件概要
係争の対象となったドラマは、大ヒットを記録したドラマ作品であり、テレビ放送されてから大きな人気を集め、一時、注目の的となった。2017年1月30日より、ネット上で配信され始め、わずか12時間で、再生回数が6億回に達し、一カ月の総再生回数が300億回を超えて社会現象となったドラマである。原告は、係争ドラマの著作権者から独占的な情報ネットワーク伝播権の許諾を得た。
「映画図解」APPは「映画図解」サイトの制作したオンライン映画を図解、解説するソフトウェアである。被告は当該ソフトウェアとネットサイトの運営会社である。被告の公式サイトのトップページには、「十分で、良い映画を味うことができる」と掲載している。「映画図解」APPで、「永遠の桃花~三生三世~01」を検索し、「再生」ボダンを押せば、関連の画像集(以下、「係争画像集」)を閲覧することができる。係争画像集は、画像382枚を含み、全て係争ドラマの第一話から切り出したものである。画像内容は、係争ドラマ第一話の映像の重要シーンをカバーし、画像の下には、権利侵害と訴えられた画像集制作者が別途、添付した文字がある。「映画図解」を通じて、画像集を閲覧する際には、5秒又は8秒等の間隔で自動的に再生する又は、画像をクリックして次の一枚に進むという方式で、再生することができる。
法廷審理において、原告は、係争画像集が映画著作物と、映画制作と類似する方法で創作された著作物(以下、「映画類似著作物」)に該当すると主張した。一方、被告は「映画図解」の画像集を提供する行為が映画類似著作物を提供する行為ではないと抗弁した。裁判所は、最終的に、他人の映画類似著作物の映像を切り出し、画像集を制作する行為は、映画類似著作物を提供する行為に該当し、被告の行為が情報ネットワーク伝播権の保護規定に違反したとして、情報ネットワーク伝播権侵害に該当すると認定し、被告が敗訴する判決を下した。然しながら、判决書は、係争画像集における画像の著作権の帰属については、如何なる評価、認定も行っていない。
二、 映画・ドラマ映像の切り出し画像の著作権の帰属
中国「著作権法」第十五条は、「映画制作に類似する方法により創作された著作物の著作権は、製作者が享有する。ただし、脚本家、監督、撮影監督、作詞家および作曲家などの著作者は、氏名表示権を有する。映画の著作物または映画制作に類似する方法により創作された著作物に含まれる脚本若しくは音楽など個別に使用できる著作物の著作者は、その著作権を個別に行使する権利を有する」と定めている。
通常、映画・ドラマの切り出し画像の著作者は映画・ドラマの撮影監督である。上記の規定に基づくと、映画・ドラマの摄影監督は、独立した著作者と見做すことができる。映画・ドラマの切り出し画像が「個別に使用できる著作物」に該当するか否かについて、一部の学者は、「監督、摄影、編集、音響担当等による共同の創作成果が分割できない映画著作物を形成し、「個別に使用する」ことができないので、单独に著作権を行使することは不可能であるとの見解を示した。然しながら、実際には、单独で映画・ドラマの切り出し画像を使用することは、よく見かけることである。例えば、映画・ドラマの著作物の切り出し画像を商品の広告に使用する等が挙げられる。本件もその代表的な判例である。摄影監督が単独で著作権を行使することは、理論上においても、実務上において障害がないと言える。
本件の被告が無断で使用したのは映画・ドラマの切り出し画像であり、係争ドラマそのものではない。原告が、係争画像集が映画類似著作物に該当すると主張したにも関わらず、係争ドラマ画像集の切り出し画像の著作権の帰属を審理せずに、直接、被告が原告の情報ネットワーク伝播権を侵害したと判定したのは、厳密な論証に欠いていると言える。
判决書には次の的ように理由が述べられている。「有線又は無線方式を通じて、公衆に著作物を提供する行為は著作物全体を提供することのみに限ると解釈してはならない。著作権法は独創性のある表現を保護するので、著作物の独創性を有する部分についても、情報ネットワーク伝播権の保護範囲にある」、「本件において、係争画像集は係争ドラマの382つの画面を切り出した。その切り出した画面は、公共分野の創作要素ではなく、係争ドラマの独創的な表現の一部になるので、係争画像集を提供する行為は著作物を提供する行為に該当する」。
判决書の論理に基づくと、「著作物に独創性のある表現の一部」又は、「公共分野の創作要素ではない」部分の著作権は著作物全体に吸收されることになる。これは、明らかに「著作権法」第十五条の規定に違反している。
三、 司法実務における映画・ドラマ著作物の切り出し画像の著作権に関する認定
映画・ドラマの切り出し画像(或いは映画・ドラマの中の一コマ)が、著作権法において、どのような著作物に該当し、どのように、権利人を認定すべきかについては、ここ数年に浮上した課題である。筆者の経験によると、司法実務において、アニメキャラクターの保護方法に関する問題を解決することがその、きっかけであった。
アニメ大国の美国と日本において、アニメのキャラクターのグッズ收益は制作側が利益を獲得する主要な手段の一つである。アニメのキャラクターのグッズの開発権、いわゆる、「商品化権」は、中国でどのような方式で、保護されているか?最初の議論において、キャラクターはアニメのあるコマによって、表現されているので、アニメの権利者がキャラクターの著作権者であるとの意見もあった。然しながら、司法機構は、最終的に、そのような考え方を否定し、美術著作物として著作権を保護する方式を確立した。
それによって、メリットを得た海外会社もある。例えば、米国ディズ二―社とミッキー楽社の紛争事件において、権利侵害行為が、2005年に発生したので、ミッキーマウスが初めて登場した「蒸気船ウィリー」の発行から既に50年を超えていた。ミッキーマウスのキャラクターはウォルト·ディズ二―とUB IWERKSが共同で創作した美術著作物であり、二人がその最初の著作権を有するので、その保護期限はUB IWERKS死後の第50年、即ち、2021年12月31日までとなるので、被告の著作権侵害行為が成立するとした。他方、不利な影響を受けた判例もある。例えば、日本のウルトラマン、ドラえもんを巡る紛争事件において、原告は映画・ドラマの著作権者から許諾を受けたことのみを証明することができ、ウルトラマン・キャラクターの設計者、ドラえもんの漫画著作物の著作権者から許諾を得たことを証明できなかったので、敗訴してしまった。国内のアニメ業界の振興につれてグッズの開発も益々、重视されるようになっている。阿凡提事件、ひょうたん童子事件等も、この問題に触れ、裁判所は同様な対処を見せた。本稿では詳しい紹介を省略する。
上記の事件はグッズの開発に関わっており、権利侵害商品が単に切り出し画像を使用したのではなく、一定の改変を行った。映画・ドラマの切り出し画像をそのまま使用する判例もある。杭州インターネット裁判所は新麗ドラマ文化投資有限会社と、揚州康凱商貿有限会社、浙江天猫ネット有限会社との著作物の情報ネットワーク伝播権侵害紛争事件の判决書において、その点について明確に定めている。当該事件において、天猫の販売者が無断でドラマ「小さな旦那さん」のドラマ写真を利用して、「小さな旦那さん姚澜と同種類のぬいぐるみ」を宣伝した。判决書は、映画類似著作物の独創性は、「動く画像によって表わされるが、動く画像は、本質上、静止画によって構成されている」。「各コマの静止画像が静止状態で撮影、完成されたものではなく、撮影者による構図、光線等の創作要素の選択、運用が必要となるので、独創性を有する。ドラマは特定の媒体で被写体への記録であり、特定コマの画像の独創性が著作権法の要件を満たす場合、当該画像は、著作権法及びその実施条例における摄影著作物に該当し、摄影著作物として保護する必要がある。当該事件における関連署名者、創作者は、ドラマ、ドラマ写真、切り出し画像の著作権が原告に帰属すると声明しているので、原告が勝訴を勝ち取った。当該事件は2018に、杭州インターネット裁判所の10大代表判例に選らばれた。
従って、美术著作物であっても、摄影著作物であっても、「独創的表現」又は「創作要素」を備える部分が個別に使用できる場合、その著作権は、映画類似著作物の著作権者と必ず、一致するわけではない。この点については、既に、司法实践によって、確認された。
四、 原告の挙証責任を軽減することは不合理である
本案において、被告は原告の資格について、抗弁しなかった。然しながら、判决書は、「映画類似著作物の切り出し画像を提供することは映画類似著作物を提供することと見做す」について、説明を行った、裁判所は、この問題を意識したと考えられる。然しながら、裁判所は最終的に、法律規定、司法実務と異なる処理方式を選択した。筆者は、裁判官は権利保護を図る利便性を考慮し、そのように処理したと推測している。
映画・ドラマの情報ネットワーク伝播権の権利主張者は、往々にして著作権者ではない。専有使用権許諾を得た動画配信プラットフォームが、情報ネットワーク伝播権許諾を得る際に、映画・ドラマの著作権者、即ち、プロデュース側と契約を締結し、授権書を取得すれば、映画・ドラマ著作物の構成要素について、著作権者の許諾を得る必要がない。プロデュース側は、当該著作物要素の創作者との契約又は許諾書類を情報ネットワーク伝播権許諾書類の添付書類として、提供しない。
然しながら、これは、原告の挙証責任を軽減する理由にならないであろう。ウルトラマン、ドラえもん紛争事件において、原告は商品化権の被許諾人である。許諾された著作物の使用方式と権利侵害著作物の使用方式は明らかに一致しているにも関わらず、裁判所は、原告がキャラクターの著作権者から許諾を受けた証拠を提出することを要求しているので、本案のような原被告の著作物使用方式が明らかに一致していない場合には、尚更、原告が許諾を受けた著作権範囲について確認を行う必要がある。確認しなければ、今まで、同様の事件で敗訴した原告にとって不公平である。
筆者は、本件の事実について詳しく把握していないが、摄影監督は、影视著作物の重要な一環であるので、プロデュース側は、通常、摄影監督と書面の契約を締結し、著作権の帰属は明確に約定しているはずであり、挙証証明を提出することは、原告にとって、難しいことではないはずであろう。係争画像集は係争ドラマを実質的に替代する役割を果たし、合理使用条項の適用を排除したことは本案判决のハイライトである。但し、两者の著作権を区别せず、原告の権利範囲を確認しなかったことは残念である。もし、実際に、係争ドラマの切り出し画像と係争ドラマの著作権者が一致していない場合には、本件の判決は間違うことになるであろう。
①陳紹玲「映画作品の単独使用作品に関する研究」,https://www.zhihedongfang.com/9377.html,最終訪問日2019年8月11日
②ミッキーマウスは最初に登場したのは、「狂った飛行機」であるが、「蒸気船ウェリー」より公開時間が遅いので、初登場したのは「蒸気船ウェリー」とされている
③ (2006)深中法民三初字第32号、陳紹玲の上記の文書の引用内容
④ (2013)民申字第368号、(2012)鄂民三終字第23号
⑤白帆,IPR DAILY,2014年6月30日,http://www.iprdaily.cn/article_2464.html,最終訪問日2019年8月11日