最近、知的財産権に関する司法解釈と指導意見が相次いで発布され、広く注目されている。最高裁は、営業秘密及び特許授権に関わる民事・行政事件について、其々、司法解釈を発布した。最高裁、最高検によって、発布された「知的財産権侵害刑事事件審理における具体的な法律適用の若干問題に関する解釈(三)(以下、「解釈」)は商標、著作権及び営業秘密等に関わる知的財産権刑事事件に関連する問題について、規定している。同司法解釈第一条は、刑法第二百十三条の「登録商標と同一の商標」について、細かく規定している。本稿では、「登録商標と同一の商標」の認定基準について考察してみる。
一、刑法における登録商標の冒用罪に関する規定
刑法第二百十三条では、登録商標の冒用罪は、登録商標の所有者の許諾を得ずに、同種の商品に、その登録商標と同一の商標を使用することを指しており、情状が重い場合には、三年以下の懲役又は拘留に処し、罰金を併科又は単独に罰金に処することができるとしている。特に情状が重い場合には、3年以上、7年以下の懲役に処し、罰金を併科することができると規定している。従って、「登録商標と同一の商標」は、登録商標冒用罪の構成要件の一つである。
二、新旧司法解釈における「同一の商標」規定の比較
2004年、最高裁、最高検によって、発布された司法解釈は、登録商標の冒用罪を構成する要件について、「同一の商標」、「使用」、「情状が重い」、「情状が特に重い」と規定している。2011年、最高裁、最高検、公安部によって、発布された「知的財産権侵害刑事事件処理の法律適用における若干問題に関する意見」は、「同一の商品」「登録商標と同一の商標」の認定基準について、説明を行っている。以下では、上述の三つの法律公文書における「同一の商標」規定について、比較する。
最高裁、最高検による知的財産権侵害刑事事件処理における具体的な法律適用の若干問題に関する解釈(法釈〔2004〕19号) | 最高裁、最高検、公安部による「知的財産権侵害刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法発〔2011〕3号 | 最高裁、最高検による「知的財産権侵害刑事事件処理における具体的な法律適用の若干問題に関する解釈(三)(法釈〔2020〕10号 |
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第八条、刑法第二百十三条に定められている「同一の商標」とは、冒用された登録商標と全く同じである又は冒用された登録商標と視覚的にほとんど差異がなく、公衆の誤認を招きえる商標を指す | 第六条、刑法第二百十三条に規定されている「その登録商標と同一の商標」の問題について、次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合、「登録商標と同一の商標」と認定することができる。 (一)登録商標のフォント、アルファベットの大文字・小文字又は文字の横縦配列 を変更し、登録商標との間にわずかな差異しかないもの。 (二)登録商標の文字、アルファベット、数字等の間の距離を変更し、商標の顕著的特徴に影響を与えないもの。 (三)登録商標の色を変更し、視覚的にほとんど差異がないもの。 (四)登録商標とほとんど差異がなく、公衆の誤認を招き得るその他の商標。 | 第一条、次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合、刑法第二百十三条に規 定の「その登録商標と同一の商標」と認定することができる。 (一)登録商標のフォント、アルファベットの大文字・小文字又は文字の横縦配列 を変更し、登録商標との間にほとんど差異がないもの。 (二)登録商標の文字、アルファベット、数字等の間の距離を変更し、ほとんど差異がないもの。 (三)登録商標の色を変更し、登録商標の顕著的特徴の表現に影響を与えないもの。 (四)立体登録商標の三次元標章及び平面要素と視覚的にほとんど差異がないもの。 (五)登録商標に商品の一般名称、型番又は商品の数、品質を直接示す文字のみを追加し、登録商標の顕著的特徴の表現に影響を与えないもの。 (六)登録商標とほとんど差異がなく、公衆の誤認を招き得るその他の商標 |
三、新司法解釈における「登録商標と同一の商標」の具体的な規定
今回の司法解釈は、「登録商標と同一の商標」を構成する要件を追加している。「登録商標に商品の一般名称・型番のみを追加する」と「立体登録商標と同一の商標に該当する」の二つの要件を追加した。以下はその具体的な内容について、考察する。
情状(一):新司法解釈では「わずかな差異」という表現が「ほとんど差異がない」に変更された。実務において、「わずかな差異」の具体的内容が曖昧であることを考慮し、修正したと考えられる。情状(二)についても、それに応じて修正した。
情状(四):実務では、他人の登録商標を無断で使用し、一般名称や型番を追加することがよく見受けられるが、情状(四)は「登録商標と同一の商標」を構成することを明確に定めている。なお、意見募集稿では、情状(四)の順序が「立体登録商標」の下にあったが、今回、発布された新司法解釈は、その順序が入れ替えられたので、主に平面商標に適用すると考えられる。
情状(五):新司法解釈は「立体登録商標」の概念を初めて導入し、「立体登録商標」の三次元標章、平面要素と、ほとんど、差異がない場合、「立体登録商標」と「同一の商標」を構成すると規定している。
情状(六)は包括条項であり、ほとんど2011年の司法解釈の条文を踏襲しているが、「視覚的に」という表現が削除された。立法目的に、音声商標という非伝統的商標を保護する含みを持たせていることがある。刑法上の罪認定の視点から見れば、登録商標の冒用罪の認定基準を下げる可能性があること。これは、最高裁、最高検の責任者が記者の質問に答える際に、指摘した解釈制定の背景である。
四、「商標権侵害判断基準」と新司法解釈における「同一の商標」規定の区別
今年6月15日、国家知識財産権局は「商標権侵害の判断基準」(以下、「基準」)を発布した。同基準も、「登録商標と同一の商標」について規定している。その内、第13条は、「登録商標と同一の商標」とは、他人の登録商標と全く、同じである又は少し異なるが、視覚効果又は音声商標の音声知覚がほとんど、差異がなく、関連公衆の誤認を招く恐れのある商標を指すと定めている。「基準」の第十四条には、「登録商標と同一の商標」を認定できる情状が挙げられている。「基準」は当該問題について、商標類別に基づき、明確に規定している。伝統の文字商標、図形商標、文字と図形の組み合わせ商標のみならず、立体商標、色彩の組合せ商標、音声商標等の非伝統的商標の判断基準も明確に規定している。司法解釈が立体商標の判断基準のみを定めているので、実務において、他の非伝統的商標が同様の問題が発生する際に、「基準」を参考して、刑法上の「同一の商標」の構成することを判断できるか否かは更に、検討される必要がある。
五、終わりに
今回の司法解釈は、商標刑事事件に関わる内容が多くはないが、商標登録の冒用罪の「同一の商標」の判断基準を統一し、初めて、商標犯罪の対象を伝統的商標から、非伝統的商標の立体商標までに拡大し、音声商標を保護する含みを持たせ、刑事司法の強制力と抑止力を通じて、市場主体のために、良好な環境を作ることを図っている。