「人人影視」はどのようにすれば、逮捕されずに済むのであろうか?

マスコミの報道によると、上海市警察当局は、海外の映像作品の海賊版を違法に掲載していたサイト「人人影視字幕組」(字幕組とは、日本のアニメや米ハリウッド映画などの動画に中国語字幕を付け、違法にアップロード
作者:游云庭
2021-04-09 15:37:30

マスコミの報道によると、上海市警察当局は、海外の映像作品の海賊版を違法に掲載していたサイト「人人影視字幕組」(字幕組とは、日本のアニメや米ハリウッド映画などの動画に中国語字幕を付け、違法にアップロードする中国のアマチュア集団のことを指す)の運営者ら14人を逮捕したという。今回の知的財産権侵害事件は、3つの会社が関っており、被害額は1600万元余りに上る。また、これまで権利者の告発によって発覚された事件と異なり、今回の事件は警察当局が独自捜査を行い、摘発したとされる。

2020年9月、警察当局は「人人影視字幕組」の経営するウェブサイトとアプリを通じて、権利侵害とされる映画・映像作品のオンライン再生とダウンロード・サービスを提供していることを発見し、関連著作権者に連絡したところ、上記の映画・映像作品が著作権者から許諾又は許可を得ていないことが判明。

筆者は、人人影視が柔軟な対応姿勢を取っている海賊版サイトであるという印象を受けている。優酷(YOUKU)、テンセント、愛奇芸が独占放映権を有する映画・映像作品には手を出さず、映画の上映期間が終わってからからオンライン再生を提供している。権利者による海賊版作品の削除要求に基本的に応じており、そこまで用心深く対応してきたにも拘らず、なぜ今回、取り締りの対象となったのか?本稿では、人人影視字幕組の運営者がなぜ逮捕されるに至ったかについて考察する。

結論から言うと、人人影視がこれまで、摘発されなかったのは、映画・映像作品の著作権者の利益を過度に損なっていなかったからである。然しながら、その基礎的なビジネスモデルが刑事処罰の範囲に入っているが為に、たとえ権利者が告発しないとしても、その規模が大きくなるにつれて、いずれ政府が手を打つ対象に入って来ることになるであろう。逮捕の分岐点となるのは、字幕のダウンロード・サービスのみを提供し、映画・映像作品に触れているか否かであろう。オンライン再生サービスを提供することは論外のことである。


一、人人影視は、なぜそこまで、用心深く対応してきたか?

筆者は中国国内のオンライン映画・映像に関わる権利保護のいくつかの特徴をまとめてみたが、人人影視はほぼ、完璧に対応してきたと言える。関連業界の権利保護の規則を深く理解して運営を継続しており、そうでなければ、同サイトはとっくに閉鎖されてしまっていたであろう。

規則一、独占的権利は、優酷(YOUKU)、テンセント、愛奇芸の强みのカギとなっている

長年の競争を経て、現在、国内のオンライン映画市場は、主に優酷、テンセント、愛奇芸によって、占拠されている(cctvネットサイト、マンゴーテレビのシェアも少なからぬ地位を占めているが、国有企業は民間企業のように、積極的に権利保護を行っていない)。これらの民間企業は強力な法務部があり、民事訴訟、行政異議申し立て、アップリストアへのクレーム、刑事告発等の多様な手段に精通している。これらの民間企業の動画部門は独占放映権のある映画・映像作品を重要コンテンツとしている。人人影視は、そのような映画・映像作品に手を出さない。それによって、これらの大手企業からの攻撃を回避してきたと言える。

規則二、海賊版を掲載するサイトが正規サイトであれば賠償金を請求し、他方、非正規サイトであれば、その経営者を告発する

動画サイトの知的財産の権利保護に携わる弁護士として、筆者の経験から見れば、海賊版を発見した場合には、まず、サイトの背後にある主体が賠償する能力があるか否かを判断し、賠償する能力がある正規サイトであれば、迅速に証拠を取得して、起訴する。非正規サイトである場合、アクセス数が低ければ、放って置くことになるが、アクセス数が高ければ、刑事告発を行う。非正規サイトが、通知を受けて海賊版を削除すれば、それで済むことが多い。刑事告発の手続きが複雑で手間がかかるため、摘発できるサイトの数は限られている。人人影視は柔軟な対応姿勢を見せており、海賊版削除に即座に対応することで業界に知られている。

規則三、外国映画会社は中国の知的財産権保護に積極的ではない

海外の映画・映像作品は中国国内で多数のファンがいる。然しながら、毎年、中国国内で上映・放送が認められる海外映画・映像作品は非常に少ない。合法的な申請手続を経ていない映画・映像作品も、国内で少なからぬ市場需要がある。人人影視はそのような二―ズに応え、海賊版の再生サービスを提供している。なぜ外国の映画会社は著作権保護を行わないのかと疑問に思う方もいるであろう。その主な原因は、権利保護手続きが複雑であり、賠償額も低く、コストパフォーマンスが非常に悪いからである。

海外の証拠が中国の裁判所に採用されるためには、海外で公証を行った後、現地の中国大使館と領事館の認証を受ける必要があるので、約3ヶ月の期間を要する。それに、中国の裁判所はこのような知的財産権利侵害に対し、判定する賠償額が低く、コストパフォーマンスが悪いことも、外国権利者の中国国内での権利保護を阻んでいる。それによって、人人影視のようなビジネスモデルに隙を与えている。然しながら、「盗みもまた道あり」、人人影視は業界ルールを一定の程度、守っている。外国映画の上映期間中には、海賊版の再生サービスを提供しない。映画業界は上映期間中に、その主な収入を得っているので、人人影視が上映期間に、海賊版の掲載を見送ることは、過度に権利者の権益を侵害することを回避したいからとも言える。


二、字幕組のビジネスモデルは法律上どのような問題があるのか?

人人字幕組はそこまで、細心の注意を払っていたにも拘わらず、警察当局に摘発されたのは、やはり、ビジネスモデルそのものに問題があるからである。悲しい話であるが、国内のネットユーザーが慣れ親しんでいる字幕組のビジネスモードは、最初から法律上に、大きな問題があった。

問題一:翻訳にも許諾が必要である。

「著作権法」の規定によると、翻訳権は映画・映像作品の著作権者の権利であり、許諾を得ずにその作品を翻訳、伝播することは著作権侵害に該当する。興味本位で、翻訳することは、合理的使用の範囲に属するとされるが、字幕をネットに伝播することは、理論上、映画・映像作品の著作権者の翻訳権を侵害することに該当する。

問題二、字幕を付けた海賊版の映画・映像作品ファイルを圧縮、伝播することは権利侵害になる。

筆者の記憶が正しければ、中国国内で字幕を付けることによって翻訳権侵害と摘発されるケースはほとんどない。人人影視等の大手字幕組は、字幕を付けた海賊版映画・映像を直接ネットに掲載していた。最初のごろは、p2pでダウンロード・サービスのみを提供していたが、後に、オンラインで再生サービスを提供するようになった。いずれも映画・映像作品の情報ネットワーク伝播権を侵害する行為である。

問題三、広告収入と会費を得ることは、著作権侵害と認定される恐れがある。

字幕組が小さい規模に安んじるならば、関連リスクが低いであろう。民事で権利侵害と起訴されても、せいぜい弁済で済むことになる。然しながら、その規模を大きくすれば、刑事リスクに直面する恐れがある。サイトの運営管理者、翻訳者を増やし、サーバーの帯域幅を増強するために費用がかかるので、広告収入に頼らなければならない。人人影視は会員制を導入した。広告収入と会費を得ることは、法律上で営利目的と認定されることになる。

上記の行為は、「刑法」の著作権侵害罪に該当する。「刑法」は、著作権者の許諾を得ずに、営利目的のために、一般公衆にその文字、音楽、美術、視聴覚作品、コンピューターソフト及び法律、行政法規に規定されているその他の作品を複製発行又は情報ネットワークを通じて伝播し、違法所得金額が大きい又はその他の深刻な情状がある場合、著作権侵害罪に該当すると定めている。関連司法解釈は、営利目的のために、500点の著作物を複製すれば、刑罰に処することができると定めている。

最后に、人人影視は取締られた主な原因は、そのビジネスモデルに大きな欠陥がある情况下で、規模を大きくしてきたことである。拡張していなければ、少なくとも刑事リスクは低く抑えることが出来たであろう。この前にも、著作権の許諾を得ていない日本のアニメを掲載し、人気を集めようとしたサイトがあった。一部のファンから支持されたが、ネット分野の野蛮な成長期は既に、過ぎ去っていると言える。今では、知的財産権の保護が益々、強化されることになっている。これまでの認識を固守すると時代の変化に乗り遅れることになる恐れがある。数ヶ月前の第一弾アプリ、今回の人人影視が摘発された事件は正に、このような変化を示していると言える。