「人類遺伝資源管理条例施行細則」の曖昧な条項に関する考察(上篇)

科学技術部が、「生物安全法」、「人類遺伝資源管理規則」等の法令を徹底に実行し、人類遺 伝資源管理を科学的、厳格的且つ効率的に行うために、制定した「人類遺伝資源管理規則実施細則」は、2023 年 7 月 1 日より施行されることとなった。
作者:王骞
2023-11-15 13:00:28

前言


科学技術部が、「生物安全法」、「人類遺伝資源管理規則」(以下、「管理規則」)等の法令を徹底に実行し、人類遺 伝資源管理を科学的、厳格的且つ効率的に行うために、制定した「人類遺伝資源管理規則実施細則」(以下、「実 施細則」)は、2023 年 7 月 1 日より施行されることとなった。


「実施細則」は「放管服」改革を深化させ、重要環節の管理・コントロールを強化し、国家の生物安全を断固として 守るという前提のもと、公正に監督し、管理して公平な競争を促し、市場の参入障壁を下げ、便利な環境を作ると いう全体方針を徹底し、行政許可と登録範囲を整備し、制度の実行性を強化している。関連専門家は、医薬業界 にとって、重大な好材料であると指摘している。


人類遺伝資源は生命科学研究の重要な物質及び基礎情報であり、人間の生理メカニズム、病気の発生、進展、 分布の法則を明らかにする基礎資料であり、国家安全保障にかかわる戦略的資源である。科学的発見、技術開 発、ビジネス活動のいずれの視点から見ても、生命科学は現在、最も活発なイノベーション分野であり、生命健康 人身自由、人格権等の個人権利、公衆健康、国家安全及び公共利益等の重要なテーマと密接に関連している。 ここ 30 年来、各国政府がますます重視し、公衆の懸念が高まる分野でもある。


急速な遺伝子科学技術の進歩と伴い、殆どの国は、人類遺伝資源管理について立法する際に、適度な司法解釈 の余地を残している。「施行細則」は「管理条例」と比べ、運用面で著しく改善されているが、一部の条項はやはり、 曖昧であり、規制対象のコンプライアンスに混乱をもたらす可能性がある。


ネット上では既に多くの医薬業界、法曹界の専門家が、政府の監督管理力、強力さ、具体的な措置等に基づき、 「実施細則」を解釈している。医薬業界は「実施細則」を充分に理解し、徹底的に実施することになるであろう。


本稿では、医薬機関のコンプライアンス実務において、曖昧さが残されている 2 つの重要条項について考察する。 第一は、第 12 条における外国人の実質支配を認定するための「重大影響」という表現の意味である。第二は、第37 条に定められている人間遺伝資源情報の安全審査範囲である。本稿は、正式な法律意見ではなく、読者の実 際業務処理に、有益な啓発をもたらすことができれば幸いである。


一、中国における人類遺伝資源管理の時代背景


法的議論を展開する前に、先ず、中国の人類遺伝資源管理の立法背景を簡単に振り返り、現在の科学技術行政 法執行の新しい動向を簡単に紹介する。


1997 年、中国の現代遺伝学基礎を作り上げた一人である論家楨院士(学部委員)は中央政府に上書し、中国の遺 伝資源を保護することを建議した。1998 年に「人類遺伝資源管理暫行弁法」が発布されてから 20 年余りが過ぎた。 この間、立法機関と国務院は遺伝資源保護の法律法規を絶えず、制定・改善してきた。特に中国の特色ある社会 主義新時代に入ってから、人類遺伝資源保護のテーマを含む生物安全は総体的な国家安全観に組み入れられ た。新型コロナウイルスは、遺伝資源保護と生物安全立法の緊急性を更に浮き彫りにした。


2021 年 4 月 15 日に正式に施行された「生物安全法」第 3 条では、「生物安全は国家安全の重要な一部であり、 生物安全維持は国家安全観を徹底すべきである」と規定している。同法第六章は、人類遺伝資源、生物資源安全 を保障するための特別な規制を設けている。「実施細則」の具体的な条項を理解し、遵守する際に、「生物安全法」 と「管理条例」という二つの上位法律、法規の立法意図を深く理解するだけでなく、100 年未曾有の大変局の時代 背景下で、総体的国家安全観を指針として、自ら国家の生物安全を守ることに注意する必要がある。これは憲法 が中国公民に要求する義務であり、医薬機関のコンプライアンス業務の実際的な必要性でもある。


「国家安全法」第 49 条は、国家が中央と地方間、部門間、軍隊と地方間及び地域間に国家安全に関する協同・連 働仕組みを確立することを要求している。第 20 回党大会報告は、「国家安全の力量配置を完備し、全域が連動し、 立体的且つ効率的な国家安全防護体系を構築する」と定めている。総体的国家安全観に関わる多くの分野をめ ぐり、中国は既に関連部門間の協力を強化し、一体となって国家安全を共同維持するための協力・連動枠組みを 形成している。


この視点から見ると、我々は中国の特色ある社会主義の新時代に入って以来、国務院の各部門が総体的国家安 全観の方針下で、法執行に協力する決心と能力を過小評価すべきではない。実際、科学技術部は施行細則を制 定する過程において、国務院の関係部門を含む多くの機関及び専門家の意見 9を幅広く聴取した。


現在、行政法執行の面においては、「国務院弁公庁の部門を跨ぐ総合的監督管理を深く推進することに関する指 導意見」(国弁発〔2023〕第 1 号)の「総体的要求」の中で、「......多数の部門に関連し、管理が難しく、リスクが目立 つ監督管理事項については、部門を跨ぐ総合的監督管理制度を確立・健全化し、二重管理体制を徹底し、地域 連動を強化し、共同監督管理メカニズムを改善し、監督管理の的確性、有効性を高める」と定めている。


データ資源の法執行においては、2023 年 3 月、全国人民代表大会で、国務院機構改革案の審議提案に関する 議案が可決され、国家データ局(国家発展改革委員会が管理する機構)が発足し、データ基礎制度の整備調整を 推進し、データ資源の統合・共有と開発・利用を統括することとなっている。科学技術部が人類遺伝資源管理の行 政機能を行使する際に、必要な行政とデータ資源は、本部門に限られないので、医薬機構が、行政許可と登録を 申請する際、全面的に資料を提出し、協力する必要があり、監督管理を逃れることを望んではならない。


二、「施行細則」第 12 条に定められている実質支配に使用される「重大な影響」という表現の意味


「施行細則」第 12 条は「国外組織、個人が設立し、又は実際に支配する機関」に対し、次の四つの状況を列挙して いる。

(一)国外組織、個人が直接的又は間接的に機関の 50%以上の株式、持分、議決権、財産シェア又はその他の類 似権益を有する。

(二)国外組織、個人が直接的又は間接的に所有する機関の株式、持分、議決権、財産シェア又はその他の類似 権益が 50%未満であるが、その有する議決権又はその他の権益が十分に機関の意思決定、管理等行為を支配す る又は重大な影響を与えることができる。

(三)国外組織、個人が投資関係、協議又はその他の手配を通じて、十分に機関の意思決定、管理等行為を支配 する又は重大な影響を与えることができる。

(四)法律、行政法規、規章で定められているその他の事由という包括的条項。


状況(一)は会社管理における株式、財務構造を通じて、実質的支配を得ることを規制している。(2)株式、財務構 造だけでなく、意思決定、管理要素による「重大な影響」を含む。状況(三)は更に、株式、財務構造を考慮しない 場合、意思決定、管理要素の他、「その他の手配」によっても、外資が国内機関に「重大な影響」を与える実質的 支配権を有することを認定することができる。


科学技術部が国家安全保障に関わる問題において、会社管理より遥かに緩やかな基準に基づき、実質的支配を 認定していることはり明らかである。つまり、外資が支配していない国内企業も「外資企業」と認定される可能性が ある。「実施細則」第 12 条に対し、多くの関係者は、外資が VIE 協定を通じてコントロールする国内企業が明確に 外資企業と認定される以外、「重大な影響」の意味はまだ、はっきりされていないと指摘している。


筆者は、総体的国家安全保障観の方針下で、科学技術部は、実質的支配をもたらす「重大な影響」の認定につ いて、国務院の他の部門の制定する国家安全保障に関する規定を参考する可能性があると考えている。国家発 展改革委員会が 2020 年 11 月に公布した「外商投資安全審査弁法」第 4 条は、「前款第 2 項に掲げる投資企業 の実質的支配権の取得とは、以下の状況が含まれる」と規定している。(1)、外国投資家が、企業の 50%以上の株 式を有する。(2)外国投資家が 50%未満の株式を有するが、その議決権が董事会、株主会又は株主総会の決議に 重大な影響を与えることができる。(3)その他の外国投資家が企業の経営決定、人事、財務、技術等に重大な影響 を与えることができる状況。


「施行細則」と比較すると、発展改革委員会と科技部が「実質的支配」に対する観点は基本的に一致しており、何 れも株式構造、重大な影響を及ぼす意思決定と管理、重大な影響を及ぼすその他の手配という 3 つの要素を考 察して認定している。「外商投資安全審査弁法」は「重大な影響」状況への列挙が「実施細則」より細いであるが、 具体的な状況も定めていない。然しながら、上記の「弁法」は、外資安全に関する法規を通じて、「意思決定、管理」 と「その他の手配」という二つの面から「重大な影響」の意味を読み取ることができることを提示している。


外国投資を積極的に促進し、国家安全を有効的に維持するため、中国は「外商投資法」と「外商投資法実施条例」 を制定した。また、商務部と市場監督管理総局による「外商投資情報報告弁法」は 2020 年 1 月 1 日に発効された。 弁法は外商投資企業に対し、初期報告書及び年度報告書に投資家と実質支配者の情報を必ず提出するよう求 めている。上記の法律枠組みによって、全ての分野の外国投資企業は国内で企業を投資した場合、多層的支配 構造を利用しても、その実質的支配者を確定することができる。


「外商投資情報報告弁法」の実施に向けて、商務部は 2019 年第 62 号公告を発布した。この公告に添付されてい る外商投資情報報告の仕様表は「実施細則」第 12 条と類似する 3 つの支配方式を列挙している。その内、第 2 種 類の方式は、「直接的又は間接的に企業の株式、持分、財産シェア、議決権又はその他の類似権益を 50%未満所 有しているが、次のいずれかに該当する場合。(1)直接的又は間接的に会社董事会又は類似の意思決定机構の 半数以上のメンバーを任命する権利がある。(2)その指名人員が企業の会社董事会又は類似の意思決定机構の 半数以上の席を獲得することを確保することができる。(3)その有する議決権が、株主会、株主総会又は董事会等 の意思決定機構の決議に重大な影響を与えることができる」と定めている。上記の(1)と(2)は意思決定、経営要素 による「重大な影響」に該当する。(3)は、包括的条項である。


また、財政部会計準則委員会が発布した「企業会計準則第 2 号——長期株式投資」の適用指南によると、企業は 通常、次の一つ又はいくつかの事由によって、投資先に重大な影響を与えているかを判断することができる。(1)投 資先の董事会又は類似権限を有する機構に、代表者を派遣すること。(2)投資先の財務と経営方針の制定に参加 すること。(3)投資先との間に重要な取引が行われること。(4)投資先に管理人員を派遣すること。(5)投資先に重要 技術資料を提供すること。上記の状況があるからといって、投資側が投資先に重大な影響を与えるわけではなく、 企業はあらゆる事実、状況を総合的に考慮、し適切に判断する必要がある。


上記の応用指南で列挙された事由(1)、(2)、(4)は、投資者が意思決定、管理要素によって投資先企業に「重大な影響」を与えるものである。会計準則委員会の認定する重大な影響は、企業財務、経営政策決定に関与する権限 を有するが、それらの意思決定をコントロール又はその他の企業と共同でコントロールすることを意味するが 、前述の科学技術部の実質的支配認定基準への緩和傾向から見れば、上記(1)、(2)、(4)の事由は、実質的支配と認 定される可能性がある。明確な証拠によって投資先の生産経営決定に関与できないことを証明できない限り、重 大な影響を与えると認定される恐れがある。


筆者は、前述の「外商投資安全審査弁法」に基づき、外商投資安全審査事務弁公室による「重要技術及びその 他の重要分野」を理由に、企業に自主的に安全審査を受けることを要求する場合、当該企業はほぼ、科学技術部 に「外資企業」と認定されると思う。当該企業が自主的に安全審査を受け、通過しても、外資による実質的支配を 認定されること(重要な分野に関連しない外資による支配)を排除することができない。


国内の医薬機構が提携先の意思決定仕組、管理人員等の企業情報を得ることが困難であることは否めない。筆 者は国内機関が提携者と提携協定を達成する前に、中国の関連監督管理規定について提携者と詳しく意思疎通を図り、計画外の資金と時間投入をできるだけ回避することをアドバイスする。現在の総体的国家安全観の法律枠 組下で、科学技術部が外資企業情報を取得することはそれほど困難ではない。


国内機関は、法律事務所に委託し、提携会社の実質支配者に関するデューデリジェンを委託することができる。 株式構造によって認定された「外資」に対し、国内企業が直接に人類遺伝資源管理情報システム 11を通じて、調 べることができる(オンライン申告システムを開通した企業のみに適用される)。


外商投資情報報告表に列挙された第三類の支配方式は「契約、信託又はその他の方式によって企業の経営、財 務、人事又は技術等事項を決定することができる」である。「企業会計準則第 2 号長期株式投資」の適用指南は 「(3)投資先との重要な取引を行われること」と「(5)投資先への重要な技術資料の提供」を「重大な影響」の考察要 素としている。「外商投資安全審査弁法」も外国投資者が企業の「技術」に重大な影響を及ぼすことを実質的支配 に該当すると規定している。筆者は、「実施細則」第 12 条に規定されている「機関の意思決定、管理等行為を支配 し、又は重大な影響を与えるその他の手配」は、技術的要因と市場的要因の両方を含む(これらに限るものではな い)と理解できると考えている。


人類遺伝資源と密接に関連している医薬業界にとって、外資が国内の投資先企業に「重大な影響」を及ぼす技術 的要因には以下の状況を含むが、これらに限らない。特許、技術秘密の使用許可(例えば、新薬特許のライセンス イン)、重要技術の協力(例えば、核酸医薬品送達技術、希少バイオマーカーの捕獲、人工知能駆動の医薬物の セレクトプラットフォーム等)、重要原料の供給(例えば、不活化ワクチンの化学不活化剤)、国際サプライチェーンの 管理等が挙げられる。「重大な影響」を及ぼす市場的要因には、外資企業がその販売網の優位性を利用して投資 先企業の主要製品の国内市場独占販売代理権を取得すること、関連製品の研究開発及び販売協力が含まれる が、これらに限らない。腫瘍標的医薬物とその診断を伴う製品)、主要製品の国外販売許可の申告代理権を含む 国外市場の商業化許可等が挙げられる。


医薬業界は厳格な監督管理と高度な専門性という二つの特徴を有する。殆ど、全ての製品の市場流通審査、使 用規範と販売後の監督管理は、公開的且つ透明的でなければならない。政府の行政許可と医学業界の共通認識 を得て、最終的に販売を達成することができる。企業の意思決定と管理仕組みのように不透明的ではない。国内医薬機構は外資提携者と協議する際に、協力相手の技術と市場情報を充分に調査し、技術と市場面において、 外資が「重大な影響」が存在する可能性があるかを判断する必要がある。(続く)