最近、中国の動画投稿サイトで、人工知能ツールを使って、歌手孫燕姿の歌声にそっくりの「AI 孫燕姿」が歌う音 楽動画の投稿が人気を集め、その知的財産権問題がマスコミで話題となっている。本稿では、人工知能エンジン を使って人声を抽出して生成した歌曲の法的問題について考察する。
先に結論を言うと、現行の知的財産権法に基づくと、人声を使って工知能をトレー二ングし、その生成した歌曲を 商業用目的に使用しなければ、おそらく著作権侵害にならない。然しながら、ネットで配布する場合には、やはり、 先に関連作詞・作曲者、伴奏音楽及び動画素材の使用許可を得る必要がある。「民法典」に基づくと、人声を使っ て人工知能をトレー二ングし、それによって生成した歌曲は、関連当事者の許可を得なければならない。さもなけ れば、人格権侵害の恐れがある。下記は、「AI 孫燕姿」を例に、その問題について考察してみる。
第一、孫燕姿の音声を使って人工知能をトレー二ングすることは、関連知的財産権の許可を得る必要があるか?
筆者は、得る必要がないはずであると考えている。興味深いなのは、ChatGPT のようなテキストエンジン及びMidjourney のような画像エンジンの運営者は、他人のテキスト又は画像を使って、人工知能エンジンをトレー二ン グする場合は、知的財産権許可を取得しないと権利侵害になるとされているが、孫燕姿の音声を抽出し、トレーニ ングして生成した「AI 孫燕姿」は本人の許可を得る必要がない可能性がある。
「AI 孫燕姿」は、人工知能が孫燕姿の声の特徴データを得ることを前提としている。現在の人工知能の機能に基 づくと、孫燕姿の音声抽出は、レコードの歌声ではなく、話す声が使われている。ネット上には孫燕姿のインタビュ ー、発表会、コンサート等の音声ファイルがたくさん存在するので、その音声を抽出して人工知能の音声学習エン ジンに入力し、トレー=二ングすれば、孫燕姿の音声特徴データを得ることができる。
孫燕姿の音声ファイルは、法律上、録音・録画製品に属する。その製作者は録音録画製作者権の保護を受ける。 孫燕姿はこれらの録音・録画製品の実演者として、「著作権法」に基づき、音声ファイルの内容に関する実演者権を有する。然しながら、録音・録画製作者及び実演者権は著作権法上の隣接権に該当する。隣接権は「著作権法」 における弱い保護が適用され、コピー、配布、ネット配信等の権利が認められているが、「著作権法」に定められて いない使用方式の場合には、権利侵害にならないとされている。
著作物を AI エンジンに使用することは、「著作権法」の立法時に、まだ現れていなかったので、音声ファイルを AIエンジンに入力して、トレー二ングすることは、録音・録画製作者権及び実演者権を侵害する行為に該当しないと される。
一方、ChatGPT 及び Midjourney のような AI エンジンがトレーニングで使用する素材は、文字及び写真である。文 字及び写真の著作物は「著作権法」における強い保護が適用され、その明確に定められた権利保護範囲の他に、 「著作権者が有するその他の権利」という包括的な保護条項がある。従って、著作権で保護されている文章及び画 像を使って、人工知能エンジンをトレー二ングすることは、法律上で、明確に禁止されていなくても、「著作権者が 有するその他の権利」を侵害する恐れがある。
第二、「AI 孫燕姿」のカバー曲をネット上で公開する場合には、どのような知的財産権の許可を得る必要がある か?
例えば、Bilibili サイトで最も人気のある「AI 孫燕姿」のカバー曲、周傑倫の「髪如雪」1の場合には、下記の許可を 得る必要がある
1、「髪如雪」の作詞・作曲者からの授権。
2、「髪如雪」の伴奏製作者からの授権。
3、動画に使用された孫燕姿画像の授権
「AI 孫燕姿」が周傑倫の「髪如雪」をカバーする場合には、権利者の知的財産権を侵害すると認定される恐れがあ る。では当該投稿者は著作権法上の個人による合理的利用を適用し、免責されることが可能であろうか?答えは、 免責できないであろう。人工知能で生成した歌曲を投稿者が個人で聴いていれば、個人的使用に該当するが、ネ ットに投稿すれば、ネット配信行為になるので、本人の許可を受けなければならないとされている。
なお、投稿者が人工知能エンジンを使って、周傑倫の「髪如雪」を孫燕姿の歌声に置き換えた場合、周傑倫の「髪 如雪」の音声録音製作者権と演奏者権を取得する必要があるか?歌手の許諾を得ずに、AI が歌手の声を真似して 公開することは、歌手の実演権侵害に該当する」という専門家意見を引用した記事もある。
この問題について、上記したように筆者は、実演者及び録音製作者の権利が著作権隣接権であり、録音・録画著 作物を人工知能を使って、他人の声に置き換える行為は、「著作権法」で規制されていないので、著作権侵害に はならないと考えている。当然ながら、「Ai 孫燕姿」がカバーした「髪如雪」は、原曲の伴奏を使用しているので、伴 奏許可を得なければ、著作権侵害と認定される恐れがある。
最後に、上記の行為は「AI 孫燕姿」の行為に限る。:ネットユーザーが自発的に人工知能で孫燕姿の声を合成して 歌を発表する行為については、「AI 孫燕姿」の生成した楽曲を商業的に使用する行為、例えば、アルバムを販売 する、広告等行為は、「反不正競争法」に違反する。孫燕姿の音声で人工知能をトレー二ングして、生成した楽曲 等は、いずれも、商業道徳に背ぐ不正競争行為である。製作者及び配信者は高額の賠償を負担する可能性があ る。
第三、「AI 孫燕姿」は孫燕姿の人格権を侵害することになるか?
中国の「民法典」は、民事主体の人格権は法律の保護を受け、如何なる組織又は個人も侵害してはならないと規 定している。氏名権、肖像権、音声権は人格権の一部であるので、「AI 孫燕姿」が孫燕姿の名義を使用してネット 上に歌曲を投稿した行為には、人格権の問題がある。
姓名権 「民法典」は他人の姓名権を冒用又は盗用等の方式を通じて、侵害してはならないと規定している。「AI孫燕姿」は、「孫燕姿」の名義を使用し、人工知能の生成した歌曲を公開することは、氏名を冒用又は盗用する権 利侵害為に該当しないかと考えている。
肖像権 「民法典」は、肖像権者の許諾を得ずに、肖像権者の肖像を制作、使用、公開してはならないと定めてい る。「AI 孙燕姿」が公開した「髪如雪」動画の中で、孙燕姿の肖像画を使用しているので、肖像権侵害と認定される 恐れがある。「民法典」では、「肖像権者が既に公開している肖像を、個人学習、芸术鑑赏は又は科学研究のため に、必要な範囲で使用することができる」と規定しているが、インターネット上で歌曲を公開する行為は、個人学習 及び芸术鑑赏ではないので、合理的使用に該当しない。
音声権 「民法典」は、音声権者の許諾を得ずに、音声権者の音声を作成、使用、公開してはならないと規定して いる。「AI 孫燕姿」は、Ai 技術を利用して孫燕姿の音声を模倣し、許諾を得ずに音声権者の音声を製作、使用、 公開することは音声権者の権利侵害と認定される恐れがある。
「AI 孫燕姿」は音声権利を侵害しているかについて、弊所の弁護士チームが議論したところ、AI が登場するする前 に、他人の声が真似することを得意とする人もいたし、そのような番组がテレビで放送されることもあったので、問題 がなく、人間が模倣できることは、人工知能も模倣できるはずであるという意見があった。
これに対し、笔者は人間による模倣と機械による模倣には大きな違いが存在すると思っている。人間が他人の声を 模倣するためには特別な才能と訓練が必要であり、成功する確率が非常に低い。必ず似ているというわけではなく 作品数も少ないである。一方、人工知能による模倣は、音声データを直接抽出しているので、特別な才能が必要 なく、ハードルが非常に低く、コンピュータに関する知識のある人がネットの攻略法を参考にすれば、大量に生成 することができ、濫用される恐れがある。したがって、許可を得る必要がある。
最後に、知的財産権の視点から見れば、人工知能を巡って、様々な争議が存在するが、現行の法律枠組下ではまだ、深刻な問題ではなく、人工知能という新生技術に対し、今のところは、相対的に寛容的である。孙燕姿も「AI孙燕姿」に対し訴訟を提起していない。実際のところ、人工知能を利用して、人の文章、写真、音声、動画を模倣 することは、倫理問題 、その他の問題 がある。新しい技術の恩恵を受けると同時に、そのマイナスの影響を警戒 をしなければならないであろう。