直接持分VS間接持分~二つの株式インセンティブプランの優劣に関する考察

近年、中核社員を奨励する手段として、インセンティブプランを実施する企業が増えている。実務において、社員 が対象会社の株式を直接に保有する方式もあれば、有限パートナーシップ会社を設立して、 間接的に対象会社の株式を保有する方式もある。その二つのプランにはどのような区別があり どちらが優れているであろうか?本稿では、会社支配権と税金負担の視点から二つのインセンティブプランの優劣 について考察する。
作者:柏立团
2023-08-03 11:23:22

近年、中核社員を奨励する手段として、インセンティブプランを実施する企業が増えている。実務において、社員 が対象会社の株式を直接に保有する方式(以下、「直接持分」)もあれば、有限パートナーシップ会社を設立して、 間接的に対象会社の株式を保有する方式(以下、「間接持分」)もある。その二つのプランにはどのような区別があり どちらが優れているであろうか?本稿では、会社支配権と税金負担の視点から二つのインセンティブプランの優劣 について考察する。


一、間接持分制度は、小数株主の干渉を回避することができる


直接持分の場合、インセンティブの対象者が対象会社の株式を直接、保有することになるので、インセンティブ効 果が高い反面、デメリットもある。中国「会社法」は、有限責任会社の株主が知る権利を有し、会社の財務会計報 告書、会計帳簿及び関連会計証憑書類を閲覧する権利があると規定している。中国の殆どの民間企業、特に中 小民間企業が会社管理、財務処理、税務ガバナンス等において、規範性を欠いている場合があるので、投資退 出の段階において大株主と少数株主の間に紛争が起こりやすい。


一方、間接持分の場合、インセンティブの対象は有限パートナーシップ会社の有限パートナー(LP)の立場である。 有限パートナーは、有限パートナーシップ会社を通じて、対象企業に対する知る権利を行使することができるであ ろうか?上海第二中等裁判所と江蘇省高等裁判所で審決された二つの判例は下記の見解を示した。


江蘇省高等裁判所で審理された郭金林氏と金浦グループ会社の株主の知る権利に関する紛争の執行異議事件 (事件番号:【2017】蘇執行監 648 号)において、江蘇省高等裁判所は「投資会社の株主の知る権利は通常、その連 結決算の持株子会社まで拡大される」と認定し、財務資料の提供者は親会社であり、子会社には提供義務がない との見解を示している。


上海市第二中等裁判所で審理された科朗社と上海和豊社の株主の知る権利に関する紛争事件において、上海 第二中等裁判所は「株主の知る権利は子会社にまで拡大することができる」と認定し、「子会社が法律に基づき、 独立した民事権利を有し、民事責任を負う法人であることを考慮し、子会社の他の株主の権利を損なうことを回避 するため、その子会社は 100%持分子会社でなければならない」との見解を示した。


上記から見れば、高等裁判所が、株主が対象会社の子会社の財務資料を閲覧する権利があると判定した判例に は、幾つかの特徴がある。例えば、会社定款及びその他の当事者との合意等が存在する場合に限られている又 は次の要件を満たしている必要がある:1、持分子会社(江蘇高等裁判所の見解)。2、100%の持分子会社(上海二 中等裁判所の見解)。3、閲覧の提供会社は対象会社であり、対象会社の子会社は訴訟当事者ではない。


有限パートナーシップ会社を通じて、株式インセンティブを実施する間接持株制度の場合、対象会社の株式保有 数は、相対的に少ない(株式インセンティブは、通常、対象会社の 30%以下の株式を所有する)。対象会社は持株 子会社とはならず、LP の対象企業の知る権利という主張は裁判所の支持を得ることが困難である。つまり、対象会 社の LP が「会社法」の規定に基づき、株主の知る権利を主張する際には、有限パートナーシップ会社のみに主張 することができる。従って、有限パートナーシップ会社を設立することを通じて、株式インセンティブを実施する間 接持分制度の場合、株主利益をよりよく保護ことが可能となる一方、インセンティブの対象者は配当権及び提案権 のみを有するとされている。


二、直接持分制度は、税金負担が相対的に軽い


直接持分制度の固定税率と比べ、間接持分制度の場合、LP の税金負担は不確定的である。通常、退出時の投 資所得が高い場合には、直接持分制度よりも税金負担が重くなる。


直接持分制度の場合は、株式譲渡所得に対し、20%の所得税が課せられるが、LP の場合には、「事業所得」として5~ 35%の所得税率が適用される。2016 年、国家税務総局は「株式インセンティブと技術出資に関する所得税政 策改善に関する通知」(財税【2016】101 号)を発布した。101 号公文書によると、直接持分制度が実施された場合、 特定の条件を満たす非上場会社は、税務機関に個人所得税の繰延納付を申請することができる。つまり、従業員 はインセンティブ株式を取得した際に、税金を暫定的に納付しなくても良いことになる。個人所得税は 20%の税率 で計算される。


繰延課税の要件を満たしていない場合には、インセンティブ株式を取得した際に、実際の出資額が公正価格より 低い差額分に対し、「給与所得」として、3 ~ 45%の税率で所得税を納付し、その後、株式を譲渡した場合には、 譲渡金額と取得コスト及び関連税金の差額に基づき、20%の所得税を納付する必要がある。


従って、税務機関への繰延納税申告が認められるか否かによって、税金負担が大きく異なってくる


現在、間接持分制度のインセンティブプランが、繰延納税申告が認められることは非常に少ない。101 号文第 1 条 「インセンティブの対象は、当該地域に居住する企業の自社株とする」と定めている。インセンティブの対象者が対 象企業の自社株を直接保有することがその前提条件となっている。有限パートナーシップ会社を介して行われる 株式インセンティブは、本質的には株式インセンティブに該当するが、税務当局は 101 号の規定を理由に、通常、 間接持分によるインセンティブプランの届出を受けないため、繰延課税の優遇を受けることは非常に困難である。


有限パートナーシップ会社を介した株式インセンティブに関する税務当局の処理方法は次の通りである:インセン ティブ株式を取得した場合、実際の出資額が公正価格を下回る差額分に対し、「給与・給与所得」として、3 ~45%の所得税が課せられる(インセンティブの実施に伴う株式取得費用も税引き前で控除できる)。譲渡額と取得コスト 及び関連税金の差額に基づき、有限パートナーシップ会社に対し、「経営所得」として 5%~35%の個人所得税を徴 収する。


つまるところ、現在の法律枠組下で、間接持分制度を導入する場合には、インセンティブ効果を果たすと同時に、 少数株主による干渉を回避することができる。会社の安定的な経営を促進することができる反面、保有者の税負担 が相対的に重くなってしまう。一方、直接持分制度の場合、税負担が安定的であり、インセンティブ効果も高いが、 運用を誤ると、会社の成長にマイナスの影響をもたらす可能性がある。企業は、インセンティブを与える対象会社 の特徴、発展段階、コンプライアンスレベル等の要素を考慮して、どのような形式のインセンティブプランを実施す るかを決める必要がある。