著作権の期限切れを迎えるミッキマウス、ディズ二ーは何を一番恐れているか?

今年、94 歳となったミッキーマウスは 2024 年にて、ディズニーの本場米国で、その著作権の期限切れを 迎えることになる。実際のところ、米国を除くその他の国では、ミッキーマウスの著作権はとっくに保護期間 が過ぎている。ディズニーは、ミッキーマウスの IP を熟知しており、初代のミッキーマウスに新しい要素を加 え続け、知的財産権をベースとする様々な事業を展開することによって、莫大な商業利益を得ている。然 しながら、ディズ二ーにも弱点が無いわけではない。本稿では、競合他社がミッキーマウスの商業価値に 最もダメージを与える方法、ミッキーマウスをホラー映画やポルノ映画に使用する場合の影響及びディズニ ーの可能な対応について考察する。
作者:游云庭
2022-10-19 11:31:02

今年、94 歳となったミッキーマウスは 2024 年にて、ディズニーの本場米国で、その著作権の期限切れを迎えることになる。実際のところ、米国を除くその他の国では、ミッキーマウスの著作権はとっくに保護期間が過ぎている。ディズニーは、ミッキーマウスの IP を熟知しており、初代のミッキーマウスに新しい要素を加え続け、知的財産権をベースとする様々な事業を展開することによって、莫大な商業利益を得ている。然しながら、ディズ二ーにも弱点が無いわけではない。本稿では、競合他社がミッキーマウスの商業価値に最もダメージを与える方法、ミッキーマウスをホラー映画やポルノ映画に使用する場合の影響及びディズニーの可能な対応について考察する。



一、米中両国のミッキーマウスの著作権期限



米国におけるミッキーマウスの著作権保護期間は延長されたことによって、2024 年にて満了することとなっている。ミッキーマウスというキャラクターは、ウォルト・ディズニーが 1928 年に制作したものであり、同年、映画「蒸気船ウィリー」でデビューを果たして以来、世界的な人気を博している。当時、米国「著作権法」の保護期間は最長、56 年とされており、ミッキーマウスは 1984 年に、パブリックドメインになるはずであった。然しながら、ディズニーはその巨大なビジネス利益を安易に手放すはずがなく、法律を改正し著作権の保護期間を延長する対策を考えた。そこで、ディズニーを始めとする大手エンターテインメント会社の積極的な働きかけによって、米議会は 2 度にわたり「著作権法」を改正した。これによって、ミッキーマウスの著作権保護期間は 56 年から 95 年に延長され、2024 年に満了することとなった。中国及びその他の殆どの国では、ミッキーマウスの著作権がとっくに失効している。文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約1(以下、「ベルヌ条約」)は、著作物が法人著作に該当する場合には、保護期間は発表後の 50 年間であり、個人著作に該当する場合には、保護期間が著作者の生前及び死後の 50 年間であると規定している。中国も、ベルヌ条約の締約国であり、「著作権法」に、類似の著作権保 護規定を設けている。ウォルト・ディズニーが亡くなったのは 1966 年2であったので、中国を含む世界のの国々では、ミッキーマウスの著作権はとっくに保護期間を超えている。



二、なぜ、中国ではミッキーマウスが著作権切れになったとしても、ディズニーと競争する相手が現れないか?



ミッキーマウスの著作権はとっくに期限切れになっているが、中国国内ひいては世界の他の国々で、ミッキーマウスの創作において、特に影響力のある非ディズニー作品は現れていない。なぜかというと、「ベルヌ条約」と「著作権法」は、初代ミッキーマウスの著作権保護期間が作者の没後 50 年であると定めているが、ディズニー社が当該著作物を再加工したり、新しい要素を加えたりすれば、法人著作として、保護期間がその新要素が公表された後の 50 年間であると規定しているからである。つまり、最近マスコミで、著作権の期限切れが話題になっているのは、前述した 1928 年に発布されたミッキーマウスのみである。現在、広く使用されているミッキーマウスはディズニーが近年作ったもので、まだ保護期間中ということである。


ディズニーはミッキーマウス原作の著作権切れに対応し、過去の 100 年近く、新たな要素を加え続けることによって、新しいミッキーマウスのキャラクターを創作してきた。他人がミッキーマウスを使用しても、ディズニーほど熟知していないので、うまく利用することができない。たとえ、一部の利益をもらえるとしても、ディズニーはロイヤリティを通じて、最大の利益を得ることができる。常に新しいキャラクターを創作し、市場を獲得することができる限り、ディズニーは高額なロイヤリティによって、最大の利益を得ることができる。



三、競合相手がどのようにすれば、ミッキマウスのイメージを大きく棄損することになるか?



ミッキーマウスに熟知するディズニーに勝てる相手がいないことが実証されてきたが、だからといってディズニーが安心できるわけではない。実際には、著作権が期限切れになる最大のリスクは正面からの競争ではなく、キャラクターのイメージを劣化させるリスクである。例えば、第三者がミッキーマウスにホラーやポルノのコンテンツを創作して市場で流行させることは、ミッキーマウスという青少年向けの愛らしいイメージを台無しにし、その価値に劇的な影響を与える恐れがある。今年初め、ディズニーのもう一つの人気キャラクター「プーさん」も、同様の問題が発生した。プーさんの著作権期間が満了したことに踏まえ、ある監督は「Winnie the Pooh:」というホラー映画を製作した。インタビューにおいて、同監督は、当該映画が 1926 年版の「クマのプーさん」に基づくように最善な努力を尽くし、 且つ誰にもディズニーの作品と誤解させないことを保証した3。また、例えばイギリスのお馴染みのキャラクターのペッパピッグ、本来は、低年齢児童向けのアニメの主役である。然しながら、ネットで「ペッパピッグの刺青を入れた社会人に拍手」のネタが流行ったことにより、暴力団と連想させことになり、児童向けのイメージを大きく損害してしまった。長い目で見れば、「社会人」という設定は、そのビジネス価値を大きく損なう恐れがある。



四、ミッキーマウスがホラー映画に使用された場合、ディズ二は権利を保護することができるか?



ミッキーマウスがホラー映画やポルノ映画に使用された場合、著作権の保護期間内であれば、著作者は著作物との同一性保持権が侵害されたとして、訴訟を提起することができる。著作権の保護期限が切れた場合、同一性保持権を主張することは難しくなると考えられる。要するに、ディズニー側は、米国では勝算が少ないが、中国では訴訟に勝つ可能性がある。ディズニーによって起訴するのではなく、ミッキーマウスの著作者であるディズニー氏の後継者が起訴しなければならない。


「ベルヌ条約」の規定によると、著作者は独立した人格権を有し、生涯にわたってその名声を損なう歪曲、分割又はその他の修正行為に対し、人格権を保護する権利がある。著作者が死亡した場合、ベルヌ条約は、少なくとも、著作権の満了まで保護すると規定している。ベルヌ条約に加入する前に、その国が著作者に人格権を付与していない場合には、著作者が死亡した後にも保護しないと規定できる。


米国では、ベルヌ条約に加盟する前から著作者の人格権が存在しなかった。米国の「著作権法」は、著作者が死亡した後の人格権を認めないため、現在、米国では著作者が死亡した後の著作物の同一性保持権が認められておらず、後継者もその権利を行使することができない。


中国の「著作権法」は、著作者の署名権、修正権、著作物の同一性保持権が保護期間の制限を受けないと明確に規定している。同時に、「著作権法施行条例」は更に、著作者の死亡後、その相続人又は遺贈を受ける人が人格権を取得することができる。この規定によると、著作者は、同一性保持権等の著作権を譲渡できないが、相続させることできる。それゆえ、中国では、ウォルト・ディズニーの後継者がミッキーマウスキャラクターを歪曲・改竄する行為を発見した場合には、訴訟を起こす権利がある。


最後に、米国現行の「著作権法」における 95 年の保護期間が長すぎるとの意見もある4。筆者らは、ミッキーマウスの著作権を保護するために、法律を改正することには到底、共感できない。経済学の視点から見れば、保護期間の延長が、社会にもたらす収益とコストが対等しているかを考察する必要がある。保護期 間が長すぎると更なる高度な独占を生じさせ、新しい作品を創作するコスト又は他人が権利者を遡及し、使用するコストが高くなる恐れがある。保護期間の延長によって、新しい作品を創作することを励ます効果がかえって低くなり、社会にもたらす収益がコストを下回る可能性がある。