企業の視点から「外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する弁法」及びその影響を読み解く  

2021年1月9日、商務部は今年の第一号公文書として、「外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する弁法」(以下、「弁法」とする)を公布した。これは米国のロング・アーム管轄に対応するために講じた新しい対抗措置である。「弁法」は、国際法に違反し、中国と第三国との間の貿易取引を不当に制限する外国の法律及び措置に対し、商務部は承認・執行・遵守しない禁止令を発布する権利を有すると規定している。禁止令に違反する、即ち、外国の関連法律及び措置を執行する主体は、民事賠償及び行政処罰に直面する恐れがある。一方、禁止令を遵守した者が重大な損失を被った場合、関連部門は必要なサポートを提供することができる。
2021-05-13 16:37:56

2021年1月9日、商務部は今年の第一号公文書として、「外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する弁法」(以下、「弁法」とする)を公布した。これは米国のロング・アーム管轄に対応するために講じた新しい対抗措置である。「弁法」は、国際法に違反し、中国と第三国との間の貿易取引を不当に制限する外国の法律及び措置に対し、商務部は承認・執行・遵守しない禁止令を発布する権利を有すると規定している。禁止令に違反する、即ち、外国の関連法律及び措置を執行する主体は、民事賠償及び行政処罰に直面する恐れがある。一方、禁止令を遵守した者が重大な損失を被った場合、関連部門は必要なサポートを提供することができる。

2ヵ月近くが経った今、「弁法」の禁止令申請等の救済措置を適用するケースが公布されていないが、貿易取引の主要参与者の企業として、「弁法」によって示された政治的シグナルに充分な注意を払い、その詳細内容を把握し、自社利益を守るための新なルートを探し、全面的に「弁法」のコンプラインス要求に対応する必要があろう。以下では、「弁法」の具体的な内容に基づき、「弁法」が企業の日常経営にもたらしうる影響を考察する。



一、「弁法」の重要ポイントを読み解く

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具体的な分析:

(一)「弁法」の適用範囲と判断基準

「弁法」は外国法律及び措置による中国国内の実体への禁止・制限に対抗するために制定されたものである。その適用範囲を判断する際には、次の要件を同時に満たす必要である。

(1)外国の法律及び措置に域外適用が存在する。

(2)国際法と国際関係の基本準則に違反している。

(3)中国公民、法人又はその他の組織が第三国(地域)とその公民、法人又はその他の組織と正常な経済貿易及び関連活働を行うことを不当に禁止又は制限している。

上記の「不当な禁止又は制限」について、「弁法」は次の4つの評価要素を定めている。

(1)国際法と国際関係の基本準則に違反しているか否か。

(2)中国の国家主権、安全、発展利益に与えうる影響。

(3)中国公民、法人又はその他の組織の合法的権益に与えうる影響。

(4)その他考慮べきこと。

注意すべきなのは、「弁法」は、中国国内の実体間の取引が、禁止令を適用できるか否かについて、明確に定めていない。中国国内の企業同士の取引が禁止令措置を適用しない場合、次のようなことを生じさせる恐れがある。例えば、中国の先端企業a社が米国の不当な規制措置を受けた場合、a社と取引している第三国企業b社と中国企業c社は同時にa社との取引を制限されることになるが、a社が「弁法」に基づき、禁止令を申請すると、第三国企業b社は禁止令の制約を受けることになるが、中国企業c社は、中国の禁止措置を適用せず、米国の規制措置を従うことができる。a社はc社に損害賠償等の権利を主張することができない。

「弁法」の適用範囲に対し、禁止されているのは、具体的な貿易行為ではなく、外国の法律及び措置であり、外国の法律及び措置が「禁止」されている限り、貿易当事者は国を問わず、禁止令を遵守する必要があると解釈することもできる。その具体的な解釈と適用については、関連部門によって、更に明確に説明する必要ある。

(二)外国の法律及び措置による禁止又は制限を発見した後の対応措置-報告制度

中国の公民、法人又はその他の組織が外国の法律及び措置によって、第三国(地域)及びその公民、法人又はその他の組織との正常な経済貿易及び関連活動を禁止又は制限されていることを発見した場合、30日以内に国務院の商務主管部門に関連状況を忠実に報告しなければならない。規定通りに報告しなかった場合には、商務主管部門は、警告を与える又は罰金を科すことができる。

取引しようとする相手が外国の法律及び措置によって、禁止又は制限されていることを判明した場合、その状況を報告する必要があるか否かを検討する必要がある。例えば、中国企業がイランの企業から発注の意向を受けた後、イランの企業が米国の制裁を受けていることを判明した場合、中国企業はまだ、イランの企業と取引を行っていないが、国務院の商務主管部門に報告し、「弁法」の保護を受けることができるか否かを明確にさせる必要がある。

また、30日以内に報告するという規定は曖昧な所があり、その後の行政処罰と関連しているので、その実行可能性を検討する必要がある。

(三)業務機構が報告を受けた後の対応措置-禁止令制度

禁止令制度は、業務機構よる禁止令の発行、市場主体による禁止令の遵守、禁止令の適用免除申請の3つの部分が含まれている。

1.禁止令の発行:業務機構は関連する外国の法律及び措置に不当な域外適用があることを確認し、国務院の商務主管部門は関連外国法律及び措置を承認、執行、遵守しない禁止令を発行することを決定することができる。禁止令が公布された後、業務機構は実際の状況に応じて、禁止令の中止又は撤回を決定することができる。

2.禁止令の遵守:禁止令が公布された後に強制的効力が発生する。禁止令を遵守せず、外国の関連法律と措置を承認、執行、遵守する場合、禁止令の「当事者」は相応の民事賠償責任と行政処罰に直面する可能性がある。

3.禁止措置の適用免除:中国公民、法人又はその他の組織は国務院の商務主管部門に禁止措置の適用免除を申請することができる。

禁止令の適用免除を申請する場合、申請者が国務院の商務主管部門に書面申請を提出し、国務院の商務主管部門は申請を受理した日から30日以内に承認する決定を下す必要がある。緊急時の場合には、速やかに決定を下さなければならない。

「弁法」の条文から見ると、報告、免除申請、損害賠償請求等の条項の主体は全て、「中国公民、法人又はその他の組織」であるが、禁止条項の義務主体のみが「当事者」となっている。ここにおける「当事者」に、海外主体が含まれているかは微妙である。海外主体が含まれているとすれば、「弁法」の域外適用及び訴訟手続、実行可能性等の問題を生じさせる可能性がある。禁止令に違反すると法的責任を問われる恐れがあるので、海外主体が二者択一の難題に直面することになる。海外主体が含まれなければ、「弁法」の効果は多少、弱まることになる。

(四)禁止令の付随的結果-損害賠償制度

中国の公民、法人又はその他の組織は、関連主体が禁令範囲内の外国の法律及び措置を遵守することによって、その合法的権益を侵害された場合、関連当事者が法によって適用免除を受けた場合を除き、中国の裁判所に訴訟を起こし、裁判所に強制執行を申請することができる。

禁止令の範囲内の外国法律に基づき、下された判決、裁定によって、中国の公民、法人又はその他の組織が損害を被った場合、被害を受けた者は法に基づき、訴訟を提起し、当該判決、裁定によって利益を得た当事者に対し、損害賠償を求めることができる。

(五)禁止令を実施した後のその他の支援措置

業務機構は、外国の法律及び措置の不当な域外適用に対処する中国公民、法人又はその他の組織に、指導、サービスを提供する責任がある。関連主体が禁止令を遵守し、関連外国の法律及び措置を遵守することを拒否し、それによって重大な損失を受けた場合には、政府の関係部門が具体的な状況に応じて必要なサポートを行うことができる。

政府からの「必要なサポート」の具体的内容は、明確化されていないが、100年未曾有の変局を背景に、我々は、関連方策の公布を大いに期待している。中国の関連法律実体は国際ビジネスを展開する際に、広い範囲での国際ビジネス活動が制限されないことを確保するために、通常では、自社のコンプラインス要求に応じて、外国の法律と措置を研究し、自社取引に対し、超えてはならないレッドラインを定めている。


二、「弁法」が及ぼしうる影響


(一)禁止令は新しい対抗措置である

「弁法」の目的は、米国の輸出規制及び経済制裁を抑制し、米国による規制、制裁を受ける実体と取引する主体を保護することである。中国国内の企業は禁止令を利用して、自社の利益を保護することを試みることができる。

禁止令は下記のような役割を果たすことがある。例えば、米国が外国企業a社と中国企業との間の貿易取引を禁止又は制限する場合、「弁法」の実施に伴い、中国企業は「弁法」に従い、商務主管部門に関連状況を報告する必要がある。業務機構の評価を経て、当該制裁に不当な域外適用が存在することが認定された場合、商務主管部門は、米国による不当な禁止又は制限を承認・執行・遵守しない禁止令を発行することができる。

禁止令による保護の下、中国企業は理論上、外国企業a社と正常な貿易取引を行うことができる。中国企業が禁止令を遵守し、米国の不当な措置の執行を拒否することによって、重大な損失を受けた場合、政府は状況に応じて、必要なサーポトを提供することができる。その他の企業が禁止令に違反し、米国の不当な措置を遵守し、中国企業に損害を与えた場合、中国企業は訴訟を通じて、賠償を求めることができる。

禁止令が米国の規制、制裁を阻止できるか否かは、明らかにその他の深い要因に係っている。然しながら、中国の視点から見ると、「弁法」は米国の不当な制裁局面に対処するための新たな道を切り開いた。中国企業の国際取引がどれほど、維持されることができるかは、依然として慎重に見守る必要がある。

(二)外国による不当な措置を適時に報告する義務に注意する

上記の「報告制度」で述べたように、企業は30日以内に国務院の商務主管部門に外国の不当な措置を忠実に報告しなければならない。規定に基づき、関連状況を忠実に報告しなければ、関連部門は警告を与える又は罰金を科すことができる。

(三)禁止令の遵守・適用免除は企業に更なる高いコンプライアンス要求を提出している

「弁法」は、国内主体が禁止令を申請した場合、その他の関連主体は当該禁止を遵守しなければならない(即ち、外国の法律や制裁を執行しない)。外国の法律・制裁を執行した場合、即ち、禁止令に違反した場合、民事賠償や行政処罰が科せられる可能性がある。

従って、企業は貿易活働に従事する中で、関連する禁止令の発行状況だけでなく、国際情勢、業界動向を密接に注目し、関連禁止令を遵守するよう注意する必要がある。必要に応じて、禁止令の適用免除を申請することによって、禁止令違反の責任を回避することができる。

結び:

1.自社又は取引先(取引先が属する地域や国を含む)が米国の不当な制裁を受けていない企業は、直接的に「弁法」の影響を受けないが、貿易摩擦が一層、強まる背景下で、政治動向の変化への関心を高め、国際情勢を引き続き注視する必要があろう。

2.禁止令の適用範囲と関連措置は現時点では、明確的ではないが、禁止令が実際に公布される又は後続の法律法規が更新されるにつれて、更に明確化になるであろう。

3.禁止令は外国の法律と措置の不当な域外適用に反対する中国政府の厳正な立場を表明し、企業の合法的権益を保障する新な救済ルートを提供している。企業が禁止令制度の適用を申請する際には、政府関連省庁との意思疎通を強化し、指導、サポートを求めることができる。

4 .「弁法」は、外国企業が禁止令違反で処罰され後の救済措置について触れていない。最終的には、中国と外国が、関連外国法律・措置をめぐり、国際法上の攻防が繰り広げられることになるであろう。「弁法」に基づき、禁止令が発布されると、一部の企業は中米貿易紛争のしわ寄せを受け、損失を被ることになるであろう。

5.上記したように、禁止令制度は企業のコンプライアンスに大きな課題をもたらしている。制裁と対抗措置に挟まれている企業にとって、ビジネスリスクと法的リスクの均衡を図るためには予め、全面的な評価を行うことが必要であろう。